イントロダクション
上映集団「東京映像旅団」は、2005年から都内での上映を重ね、イメージフォーラム・シネマテークでの開催は5回目を数えます。
誰もがいつでも映像を公開できる今。わたしたちはネットサーフィンしながら、過去から現在まで、いろいろな映像にアクセスできます。そんな時代にスクリーンで映像を発表する作家は、何をできるのでしょうか。
東京映像旅団で作品を発表する作家たちは少なくとも、それぞれが独自のテーマを継続し、スタイルやシステムを深化させながら、個人で作品を作りつづけています。
未来人の視点で映像を「編纂」したり(奥野)、母親が自分を撮影したビデオを取り込んだり(池端)、動きを極限まで排除したアニメーション(柏田)や、ジャンル映画を再構成する作家(吸血鬼映画:内藤、近未来SFアニメ:袴田)など…
ジョナス・メカスや松本俊夫のような巨匠はいないけれど、野生の作家たちの個人的な探求は一貫しています。
新規加入した4名の作家から新たな風を受けて、旅団は今年も出航します。
また、過去の上映作品はインターネット上に公開しているので、参照されたし。
《野村建太/東京映像旅団執行部》
上映プログラム
Aプログラム 7作品63分
未来の考古学 File NO.004 奥野邦利/15分/2018
Room 大野絢子/2分/2018
遠雪 日高悠太/10分/2018
なぎさのカサーレス 袴田くるみ/6分/2017
聖なる日 千葉佐記子/5分/2018
who's there 柏田奈津子/5分/2018
あ可よろし 川越良昭/20分/2018
Bプログラム 4作品62分
三木はるかるた2017 三木はるか/30分/2018
PORTRAIT:The day starts as usual. 原藍子/5分/2018
おいてけぼり 渡井登紀子/12分/2018
そして美しく 1945 奥野邦利/15分/2018
Cプログラム 2作品71分
Twinkling Effect for 2 pianos 松崎央/22分/2018
ドラゴン&ドラクル 内藤慈/49分/2014
Dプログラム 7作品60分
C 古沢将太/5分/2018
フィルムは映画の夢を見るか 白鳥蓉子+大島風穂/3分/2018
wearable, capital, repetition 小久保晴太郎/5分/2018
あなたの人生の到着 野村建太/5分/2018
おはよういただきますごちそうさまおやすみ 岡村知美/5分/2018
影という光は 垣田篤人/10分/2018
あたたかいくさり 池端規恵子/12分/2018
人生の終わり(FOR GRANDFATHER) 芦谷耕平/15分/2018
作品解説
Aプログラム
未来の考古学 File NO.004 奥野邦利/15分/2018
作中の映像は、未来を描いたものではありません。
もちろんSF的要素は全くなしです。
ここで、ご覧くださるみなさんに一つお願いがあります。
どうか自分が未来に生きる人類だと想定してください。
どのくらいの未来かは、みなさんにお任せします。
ただ、映しだされる映像が、考古学的発見となりうる程度でないと困ります。
3つの映像は、作者の思考を追認するようなものではありません。みなさんに知のリソースを提供もしません。
発掘された古代の遺物を陳列するように、僕は、未来の考古学者のつもりで編纂を始めました。
今回は、File NO.004です。
Room 大野絢子/2分/2018
不安症をテーマにした作品。不安にかられるのは過去にすがり、未来を危惧しているからではないかと考えました。果たして現在(いま)を実感して生きている人はどのくらいいるのだろう。モンタージュ作品を制作したく、使った写真、映像はフリー素材を使用しました。
遠雪 日高悠太/10分/2018
谷川俊太郎みたいな詩人になりたい!というのが夢だった。
書けど書けど自分の中で納得もいかず、当然芽が出ない。
「東京にばっかりいるからイメージが削がれるんだ!」ということで文無し詩人サキの大切なことに気づくための一泊旅行が始まる。
なぎさのカサーレス 袴田くるみ/6分/2017
数百年前、人類は地上を捨て地下に潜った。クローン人間に労働を任せたわたしたちは、陽の当たらない世界でも安全に暮らしていけると思った。わたしの夫もそういうクローンのひとりだ。彼はわたしとの間に子供が持てないのをいつも気にしていた。彼は眠っているとき「カサーレス」という名をよく口にした。わたしは「カサーレス」の正体を突き止めるため、地上に行くことにした。
聖なる日 千葉佐記子/5分/2018
”本心を言わない水臭い奴”だと周囲はもちろん両親にまで誤解されている。
誤解には慣れたものだが、私だってみんなともっと仲良くしたい!
今回のハッピーエピソードは、そんな心配を排除してとってもなかよしに特化したキャラメルタウンが舞台。みんなでたくさんおはなししてなかよくなるのが今月のハッピー目標です。
who's there 柏田奈津子/5分/2018
わたしの作品は実写の映像ではありませんので、「カメラを持ってその場に立つ」という事をしないで、これらの景色を存在させています。これが今回の制作でようやく頭に入ったことでした。
ちょうど今から一年ほど前に、北極海の沿岸を飛行機で飛ぶ機会がありました。1万メートルの上空から眺める、薄いもやの下の、行けども行けどもどこまでも平らかな極寒の地。氷の割れ目を、あそこは本当はどれくらいの距離があるのかしら、あの対岸へ渡るとしたらどうするか、手漕ぎの舟を作って…などと考えながら眺めていました。そこはどんなに孤独で、手はどんなに絶望的に冷たく、ただあるだけの時間を一息一息、どんなことを考えながら進むだろうかと。
これまでの自分の作品には「人」が居そうな気配が無かったなと今では思うのですが、(作り手本人が感じることが必ずしも作品に表れているとは限らないのですが)今回は初めからどこかに居る気がして、不思議に思っています。
あ可よろし 川越良昭/20分/2018
自分の過去に向けられた“まなざし”はもはや現在形の体験ではありえず、 解釈によって幾らでも組み換えが可能であるがゆえに、 そのそれぞれに、今から新たな文脈を用意することができる。 私という肉体とレンズが通過した軌跡を、興味本位で眺めながら 私が所有する過去とは違った時制の“見世物”ができないだろうか。 「あ可よろし(あかよろし)」とは花札の、 赤い短冊に書かれた文字。 その出典があやふやなところも、私たちが普段「あのよろし」 と読んでしまうところも、どうも信用できない言葉だが、 意味は明快にあり、それを「あきらかによろしい」という。 一方的な自己肯定とは違うところで、 自分の過去を“よきもの”として楽しめるほどに 時間は経ったのだろうかと 異界(フィクション)と内界(リアル)との言葉を尽くす物語。
Bプログラム
三木はるかるた2017 三木はるか/30分/2018
2017年1月、うつ病になりました。
病院の先生のすすめもあり、気晴らしに短歌を作り始めます。
NHK短歌番組に応募しては落選の日々が続きました。
このままでは埋もれてしまいそうな気持ちを、かるたにして遊んでみましょう。
PORTRAIT:The day starts as usual. 原藍子/5分/2018
目が覚めた瞬間と眠りに落ちる瞬間を3ヶ月間撮影したドキュメンタリー。
だいたい朝は鼻の調子が悪く、夜はのどの調子が悪いようでした。
それ以外にもいろいろとわかったことがありました。
おいてけぼり 渡井登紀子/12分/ 2018
父が亡くなった
それからまもなく私は12歳になった
12歳の誕生日のことは覚えていない
私は父がなくなった歳を超え
娘は12歳を過ぎた
10歳の息子は今日も私を呼んでいる
お堀の淵に置いてきてしまったモノを想い
明日も
続いてゆく
そして美しく 1945 奥野邦利/15分/2018
抽象的な光の映像(moving image)の増幅/反復を基調として、その流れを切断するものに第二次大戦中の記録写真(still image)を配した。極めて緩慢な映像(moving image)は、それ自体が何らかの意味に回収されることを拒み、その流れを切断する記録写真(still image)もまた極めて短い断片でしかない。それは受容者のコンテクストにイメージが回収されることを二重に拒むことの意図を持つ。
ここでの映像体験は作者と受容者との意味の共有を積極的に避け、映像をただ見る故に現れる記憶のメカニズムを顕在化させようとする試みである。明滅的に現れる記録写真(still image)は、アメリカ国立公文書館にてパブリックドメインとして公開されている1945年終戦直後の長崎の三菱浦上兵器工場周辺の記録映像から抜粋したもで、最後の映像(moving image)は同じものを使用しているのだが、この最後の映像(moving image)を見ることが、潜在的に書き加えられた記憶そのものであることを狙いとしたい。
Cプログラム
Twinkling Effect for 2 pianos 松崎央/22分/2018
「12星座」をモチーフに作られた現代音楽Twinkiling effect for 2 pianos。 その音よりモチーフの星座を度外視した上で、再度イメージを構築して映像を作るということをやって見ました。 音を通した主観的な「天体観測」とその紀行録。 音楽のリズムと、編集を含めた映像の持つリズム等とイメージで、遊んで見たと言った具合です。
ドラゴン&ドラクル 内藤慈/49分/2014
明治初期のもうひとつの日本ー。 人々がおそれる妖(あやかし)たちがはびこる世界。
妖(あやかし)たちを退治することで賞金を稼ぐ流浪の渡世人・淫波龍助(いんなみりゅうすけ)の次の仕事は、高利貸し和良木屋の養女・美那(みな)を取り戻すこと。 美那は異国の修道服に身を包む鬼に連れ去られたのだという。
山にむかった淫波は山中で女妖(あやかし)狩り・カマイタチに襲われる。
同業者を葬るためか?と問う淫波に、首筋に穿かれたふたつの傷痕を指し示すカマイタチ。
商売敵である妖(あやかし)狩り同士が手を組み、伝説の鬼との戦いがはじまるー。
Dプログラム
C 古沢将太/3.5分/2018
映像とはなんなのか、先人たちが挑み続けた問いに無謀にも挑戦。
フィルムは映画の夢を見るか 白鳥蓉子+大島風穂/3分/2018
見ているのではないかと思いました。映画保存の世界では「フィルムが眠っている」という表現をよく目にしますし、眠っているからにはおそらく夢を見ているのでしょう。16mmモノクロで撮影しました。
wearable, capital, repetition 小久保晴太郎/5分/2018
wearable, capital, repetition
あなたの人生の到着 野村建太/5分/2018
2017年にはわたしにとって、人生を左右する様々なことが起こったが、映画『メッセージ』(原題:"Arrival"、原作:"Story of Your Life")を見ることが出来たこともとても大きかった。その映画のなかでは、主人公が地球外生命体の言語を習得することで新しい世界の見方を手に入れるが、わたしはこの映画を見ることで新しい映画のつくり方を知った。
2017年6月29日12時25分にiPhoneで撮影した動画を、2016年1月から2017年8月までに撮影した8ミリフィルムで再構築することで、ある一瞬に様々な時間が同時に訪れる。
おはよういただきますごちそうさまおやすみ 岡村知美/5分/2018
インスタやなんかを見ていると、そこにあふれるたくさんの写真や動画は、テレビの中、雑誌の中に囲われていた、そこからはじき出されていた「日常」の復讐なんじゃないかと思う。
「自分の暮らす、今ココ、こそがステージ」になったのって、すごいよね?!と34歳は思います。(ま、ミイラ取りがミイラになってる感もありますが)
わたしには、世界で流れる大きなニュースと自分の暮らしが繋がっている実感はあまり無かった。
それは幼稚だったからなのか、つつがない日常を続けていくことの難しさを知って大人になったからか。
しょうもない一日がまぶしくてこわくなるぐらい。
影という光は 垣田篤人/10分/2018
現実に影は光があってこそできるものですが、僕は最近、現実の影を絵の中の影のように見ています。
あたたかいくさり 池端規恵子/12分/2018
昨年作った作品、一昨年作った作品、その前に作った作品、その前の前に作った作品…などを並べて、新撮映像とともにこねくり回すことで制作しています。なので毎年、前作のサイドストーリーみたいになっています。
使用する素材の多くは、我が家に残る古い写真やビデオ。同じカットを多用することも多いです。
例年そんな様子で編集をし続けていると、時々、このカットはいつのものだったかな?とわからなくなることがあります。撮影された時代に関係なく、何度も見返したものは懐かしいのです。例えそれが60年前の母の写真でも。
実際の時間と私自身の気持ちとの距離に、大きなズレが生じている気がしています。
そうした感覚を元に、今年は、「家中のアルバムの写真をばら撒いてしまったらどうやって並べ直すか」ということを考えていました。
死んだ人、まだ産まれていない人、成長してしまった人、老いてしまった人。
普通は年代順に並べるわけですが、同じ日付だけで並べたら?同じ場所だけで並べたら?同じ気持ちだけで並べたら?という具合に。
時間という横軸がほどけてしまい、アルバムの中でずっと迷子になっているような、そんな作品です。
人生の終わり(FOR GRANDFATHER) 芦谷耕平/15分/2018
東京映像北部方面隊第11旅団によるクーデター、“新宿映像事変”「VSシリーズ」第1回作品。「VS池端規恵子」昨年他界した祖父についての映像。