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天球の映画
「マクロコスモスとミクロコスモスの法則は似ている。内部の旅は外部空間の旅行のようである。わたしたちはいかなる場合でもわたしたちの表面の周囲を超えて溢れだし、部分関係が唯一の重心である世界にはいらなければならない」(マヤ・デレン 『夜の深み』作品コメント) 天空とは人類が接する最も遠く、また最も広大なスクリーンである。「天蓋」や「天球」という言葉にもあるように、生理的に人間は遠くのものは平面的に見えているから。そしてそのスクリーンは最も多くのイマジネーションを提供してくれている。聞けば星座の星の結びつきのパターンはどの民族にもほとんど共通しているらしく、原イメージというのは人間の内面と外界を突き抜けてしまうのかもしれない。今回のプログラムは夜空の恒星、そして太陽をモティーフにした作品集と、月を採り上げ、月に憑かれたような妖しさをもつ作品集で構成されている。映画の前後に頭上のスクリーンも注視して欲しい。(澤隆志)

作品コメント
夜の深み●星空に男女のダンサーの群舞がネガで重ねられる。ダンスする男女の白い影が夜空に星座のごとく浮かびながら戯れる。出演はアントニー・チューダー指揮下のメトロポリタン・オペラ・バレエ学校の生徒。音楽はテイジ・イトー。

太陽風●人は、太陽と死は直視できないという。フィルムより無機的な眼であるはずのヴィデオもまたCCDの焼き付きによって凝視することができない。物陰から、または反射によって太陽を見続ける。あるいは、太陽光を反射して輝く月もまた、太陽の代替物でしかない。私は悲しい恋を磁気テープに焼き付けたのかもしれない。(水上弘)

●1974年の初個展(写真) にすでに「桜」は登場している。したがって20数年ぶりの桜であり、しかもこれまであまり手をつけていなかったビデオでの撮影 (これが2作目) であった。「桜」は歴史的にも厚く物語を塗りこめられている。それを独自の映像とする、それがテーマであった。結果として、すべてのカットが、超望遠レンズにより、太陽 - 桜 - レンズの直線を保ち、時間軸に経過を委ねる作品となった。物語の埋もれた地上から桜を解き放ち、空間に舞い光にたわむれさせた、とでもいえるであろうか。(山崎博)

星の巣●地球という天体に立って空を見上げると、太陽、月、金星、火星、様々な星座、といった天体を見ることができる。そして地球上の物質は太陽によって照らし出されている。これは単純な事実ではあるが広大な宇宙に浮かぶ星と星との関係でもある。この単純な美しさをどうフィルムに記録すれば良いのか。天体観測か目的なのではない。目的は、肉眼で目に見えるものに刻印された宇宙の印を記録することである。(居田伊佐雄)

月世界旅行●H-G ウェルズやジュール・ヴェルヌの作品から着想した映像史上発のSF映画。もともとは奇術師のジョルジュ・メリエスが製作、脚本、監督、美術、主演した。2重焼きやマスク合成などの特殊効果の発見の驚きに満ちたエネルギッシュな作品である。日本公開は明治38年。

ラビッツ・ムーン●ケネス・アンガーがパリで最初に手がけた作品。イタリアのコメディア・デ・ラルテと日本の神話を基に、ピエロのかなわぬ夢を描く。幼年時代にアンガーが出演した『真夏の夜の夢』を思わせるファンタジックなセットに注目。当初35ミリで作られていたこの作品は、未完のまま70年代に編集され、サウンドが付けられたものである。「魅惑的な"マジック・ランタン"とであうピエロの、クラシック・パントマイムによる月への憧れ」(ケネス・アンガー)

合成人間●見るものと見られるもの 見る場所と見られる場所 私と他人 現実と想像 遠いものと近いもの 朝と夜 部屋と屋外 男と女 主観と客観 まぜるな危険! まぜるな危険! まぜるな危険!(芹沢洋一郎)

THE MOON●むかし夢の中によく出てきた、月明かりに浮きあがる神秘的で不気味な風景。たとえば夜空に浮かぶちぎれた雲の塊が月光に照らされ、その上をまっ黒な物体がゆっくり回転しながら飛んでゆくとか、月明かりのなかで巨大な岩が宙に浮く。岩の上には背の高い雑草が生い茂り古びた神社が佇む。神社にたどり着こうと雑草の中を歩き続けるがいっこうにたどりつけないとか... この言い知れぬ快感に満ちた不条理な風景、空間。これらの光景から今回はイメージをふくらませてみた。(伊藤高志)

一夜、一生●クリスティーン・シェーファーと一緒に、アルノルド・シェーンベルクの「月に憑かれたピエロ」に関する映画を作るアイディアが生まれた。それはテレビにおけるクラシック音楽の伝統的な形式を解体する映画--クラシック音楽に対して愉しい映像を見せるのではなく、去り行く20世紀のわれわれの世界におけるピエロのドラマを見せる映画--となるはずだった。クリスティーン・シェーファーは何らの無駄な身振りもなくピエロを演じ、ピエロは20世紀末に人間になる。時として映像は音楽に従い、時として映像は音楽と対照をなすが、まるで音楽が映画のために作られたかのように絶えず思われる。(オリヴァー・ヘルマン)
夜の深み
合成人間
THE MOON
受付(入替制)
当日900円/会員600円/2回券1,500円

<上映作品>
プログラムA
夜の深み マヤ・デレン/16ミリ/15分/1952-59
恒星日 水上弘/8ミリ/9分/1997
太陽風 水上弘/ビデオ/6分/2000
星の巣 居田伊佐雄/16ミリ/15分/1987
ヘリオグラフィー 山崎博/16ミリ/6分/1979
ジオグラフィー 山崎博/16ミリ/7分/1981
山崎博/ビデオ/20分/1989

プログラムB
月世界旅行
ジョルジュ・メリエス/16ミリ版/10分/1902
ラビッツ・ムーン ケネス・アンガー/16ミリ/8分/1950, 1978
合成人間 芹沢洋一郎/16ミリ/25分/1993
THE MOON 伊藤高志/16ミリ/5分/1994
一夜、一生 オリヴァー・ヘルマン/ビデオ/38分/1999