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2004/10/10
演技する都市 ロサンゼルス
ここのプログラムは今年度のイメージフォーラム・フェスティバルで上映され、反響を呼んだ長編ドキュメンタリー作品『演技する都市:ロサンゼルス』の再映である。今回は特別に「カリフォルニア・オデッセイ」の著者で美術評論家の海野弘によるレクチャー を交え、”砂漠の映画帝国”ロサンゼルスの多様な顔を暴く。

映画のモザイクであるロサンゼルス
トム・アンダーセンの『演技する都市 ロサンゼルス』は、ロサンゼルスについての映画の膨大なアーカイヴからの引用によって<ロサンゼルス>を浮かび上がらせようとする野心的な試みである。ロサンゼルスは様々な映画の背景なのだが、それを切り出して接続することで、図と地を逆転させ<ロサンゼルス>を前面に提示し、その全体像を見せようとするのだ。
私自身、この方法で(映画だけでなく文学も含めて)『L.A. ハードボイルド』(『カリフォルニア・オデッセイ』全6巻の第1巻 グリーンアロー出版社)の執筆を試みたので、この映画には親近感がある。J・M・ケイン原作の『深夜の告白』、ジェームス・エルロイ原作の『L.A. コンフィデンシャル』など、取り上げた作品が重なるからである。
ここで注目すべきなのは、ロサンゼルスとニューヨークのちがいである。ニューヨークは映画になるがロサンゼルスはなりにくい。この荒れ果てた近代都市は醜悪で、不気味である。反フォトジェニックなロサンゼルスの不思議な魅力が発見されるのは、やっと1970年代になってからなのである。レイナー・バンハムやロバート・ヴェンチューリなどによるカウンター・カルチャーの都市論が必要であった。
ロマン・ポランスキー監督の『チャイナタウン』によって、ロサンゼルスは映画の背景から映画の主役、主題へと踊り出る。『L.A. コンフィデンシャル』から『ブレードランナー』に至るロサンゼルス映画の傑作が登場してくるのである。
1970年代からロサンゼルスは近代都市の最先端となり、未来的な都市となった。この映画は、無数の映画の引用によってロスの都市論を語る。ちりばめられた都市風景が楽しい。かつて汗みどろになってロサンゼルスを歩きまわっていた日々が、それぞれのシーンで思いだされてなつかしい。(海野弘)

演技する都市
「劇映画にはドキュメンタリー的な価値がある」という持論を持つ映画監督/歴史家のトム・アンダーセンは、ワイルダーの『深夜の告白』 (1944)や『チャイナタウン』(1962)、はたまた『インディペンデンス・デイ』 (1996)など様々な映画を引用し、映画の中のロサンゼルスと、自分が住んでいる現実の都市ロサンゼルスを繋ぎあわせてひとつのポートレートを完成させた。1965年の人種対立によるワッツ暴動以前のロサンゼルスとそれ以後のロサンゼルスの描かれ方の違い、特定の建築物がどのように映画の中で扱われているかの比較など、重層的な考察がこの作品を非常に豊かなものにしている。ロサンゼルスという都市は、ハリウッドのメジャー作品では何らかの役割(犯罪都市、人種対立都市、ショービズの中心地など)をあてられる場合が多く、外国人監督が作った作品ではロサンゼルスはそのままの姿で登場しているという指摘も興味深い。とにかく、その多大な情報量、背景にある映画知識、鋭い観察眼に見るものはただ驚くばかりの作品である。本作は2003年のバンクーバー映画祭では最優秀ドキュメンタリー映画賞を受賞。

トム・アンダーセン●1943年シカゴ生まれ。政治的な活動の後、UCLAにて映画を学ぶ。現在はカリフォルニア芸術学院にて映画制作と纓が理論を教えている。ノエル・バーチとの共著に「ハリウッドのコミュニスト、あるいは殉教者たちの別の顔」がある。映画は、『Melting』(1965)『エドワード。マイブリッジ、ゾーアプラクソグラファー』(1976, IFF91で上映)『レッド・ハリウッド』(1996)

海野弘●1939年東京都生まれ。美術評論家。62年早稲田大学文学部卒業。『太陽』編集長を経てフリー。美術、音楽、映画、都市論、華道、時代小説など幅広い執筆活動を続けている。著書は、『アール・ヌーボーの世界』『モダン都市東京』(中公文庫)『アール・デコの時代』(美術公論社)『ダイエットの歴史』(新書館)『江戸ふしぎ草子』(河出書房新社・第4回斎藤緑雨賞受賞)『ロシア・アヴァンギャルドのデザイン』(新曜社)『カリフォルニア・オデッセイ』(グリーンアロー出版社・全6巻)ほか多数。
演技する都市 ロサンゼルス
受付
当日2000円

■上映作品
演技する都市 ロサンゼルス
トム・アンダーセン/ビデオ/169分/2003

レクチャー 海野弘
※映画をご覧になる方のみ参加できます。