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2005/3/27

アメリカの空 1980's米実験映画
ジェロームの時間●この作品は、スタイルとしては一種の日記映画であるが、単に被写体を再現的に映し出すたぐいの日記ではない。つまり日記を身辺雑記風に描くのではなく、日々のうつろいをフィルムにおける創造とかかわらせているのである。作者はあらゆる被写体をカメラで撮るばかりではなく、カメラで創ろうとしているのだ。ド−スキィの作品には、幸運と一体になった輝きが随所に見受けられる。最初はそうした瞬間を、ただ美しいと受容することに夢中で過ぎてしまうけれど、やがてそれが単にラッキーであるだけではないということに気づかされる。山野を1コマ撮りで捉えたり、氷原をクローズアップで捉えたり、街をバルブ撮影で捉えたり、カメラ側の創造も、実に丹念に加えられているのである。”映画は撮らされたものであると同時に、創造されたものでなければならない”という思いをつくづく実感させられる作品だった。(かわなかのぶひろ)
ナサニエル・ドースキイ●1943年ニューヨーク生まれ。63年より商業映画の世界で働く傍ら、インディペンデントな創作活動を続ける。71年以来西海岸へ移り、撮影監督、編集、演出と幅広く活動している。近作に、ラヴ・リフレイン(2001)

遠くを見れない男●作者のピーター・ローズは、アメリカ実験映画におけるポスト構造主義を代表する映像作家。この作家の特質は、コンセプトはきわめて硬質であるにもかかわらず題材の基本はパーソナルな体験をよりどころにしていること。映像がきわめてリリカルでしかも壮大なスケールで捉えていることなど、これまでの実験映画にはない数多くの要素を取り入れていることだ。
クライマックスといえる最終章(5部構成)では、作者が一人、サンフランシスコの金門橋をカメラを持って登る。この孤独な撮影パフォーマンスが、彼の肩に固定されたカメラが写し出す風景によって、観客に寂寞とした共感をもたらす。金門橋を吊す巨大なケーブルと、米粒のようにカメラを持ってたたずんでいる作者と、その向こうの無限に拡がる空間が、作者のパーソナルな体験を超越して、私たちにミクロとマクロが混在した不思議な世界観を与えてくれる。なお、プロローグにおける「むかしむかし、遠くを見れない男がいた」という詩は、実はクゥアモンテスという架空の詩人が、どこの国の言葉でもない”言語”で詠んだもの。また、作中に流れるSKIES OF AMERICA はオーネット・コールマンの楽曲。
ピーター・ローズ●1947年ニューヨーク生まれ。ニューヨーク市立大学で数学を学ぶ。70年代からポスト構造主義の作家として注目され、「遠くを見れない男」は初期の代表作である。近年は言語をテーマにしたビデオ作品やパフォーマンスを多く手がけている。

ジェロームの時間
遠くを見れない男
受付
一般900円 会員600円

上映作品
ジェロームの時間
 ナサニエル・ドースキイ
 /50分/16ミリ/1982
遠くを見れない男 ピーター・ローズ
 /33分/16ミリ/1981