金子川水難奇譚 金子雅和映像個展1997~2007
映像作品の体験には様々な快楽があるが、ただただ一つのシーンの音と映像に浸ることもその一つである。登場人物の関係や今後の展開の事も忘れてしまう様な"タングステン光浴"を満喫させてくれる作家の一人が、今回初個展の金子雅和である。イメージフォーラム映像研究所在籍の頃から定評ある撮影技術を駆使して、ひたすら、水面のクローズアップと、朝や夕の陽光と、ぎりぎりの露出で闇の中から浮かびあがってくる男と女のストーリーを連作する... 全てが川で、BGMはなし。観客はもはやたゆたうのみ。そのせいか、彼の映画の登場人物はしばしばアウトサイダーで素性や性格がはっきりとしない場合が多い。多くは悲劇的な話なのだけど、水面ですこしぼやけた輪郭のせいか、大昔の奇譚を聞かされているようで心地よいのだ。(澤隆志)
AURA
自然や肉体への執拗な質感描写、少女を襲う不意の暴力など、のちの作品へと繋がる モチーフが散りばめられた8ミリ実験映像作品。処女作。青森の水辺、多摩川で撮影。
ショウタロウの涙
かつて暮らした町に戻るショウタロウと姉。だが姉は、幼少時代の想い出がある川へ 向かったまま、失踪してしまう。幻想的な映像で、近親相姦の愛を描いた作品。足尾の渡良瀬川上流、多摩川で撮影。
人さらいが来ればいいのに
茶畑が広がる平穏な田舎町。そこで起きた誘拐事件は、ひとりの少女を中心に退屈な 日常をおくる人々の、滑稽な人間模様を浮かび上がらせる。 第7回水戸短編映像祭・準グランプリ受賞。大井川流域で撮影。
Ek ‐エク-
庭の木に集まるキレイな鳥の羽をむしり、自分の部屋を飾り立てる少女。彼女が森に 足を踏み入れたとき、裸となった鳥たちの復讐がはじまる・・。 現在制作中のアニメーションを抜粋上映。善福寺川がモティーフ。
すみれ人形
切断された右腕だけを残し、忽然と姿を消したすみれ。兄の文月と幼馴染みの螢介は、 それぞれの愛ですみれを捜し求める。過剰なフェティシズムで貫かれた、残虐の絵巻。 ひろしま映像展2007・撮影賞受賞。多摩川源流で撮影。
金子雅和
1978年生。イメージフォーラム付属映像研究所第21期卒業後、研究所助手をしながら映像を学び、フィルムによる作 品づくりを始める。のち映画美学校に入学、瀬々敬久監督のゼミで脚本指導を受ける。 提出企画が同校フィクションコース高等科の修了助成作品に選ばれ、『すみれ人形』を 監督。現在はイベントの映像制作、CM助監督、企画作成等の仕事をしなが ら、次回作を準備・進行させている。
Aプログラム
AURA 8ミリ(DV上映) /11分/1998
ショウタロウの涙 16ミリ/31分/2000
人さらいが来ればいいのに 監督: 小沢和史/撮影: 金子雅和/ビデオ/21分/2003
Bプログラム
Ek‐エク- 共作: 熊倉美由紀/ビデオ/2分/2007
すみれ人形 ビデオ/63分/2006