1917年、ロシア革命の年にキエフの裕福なユダヤ人精神科医の元に生まれる。本名はエレアノーラ・デレンコフスカヤ。父親は医師としてトロツキーの元で働いていたが、やがて激化するユダヤ人迫害に追われ、1922年マヤが9歳の時にアメリカに移住する。大学ではジャーナリズムや政治学を専攻していたが、黒人舞踊家キャサリン・ダンハムと出会い、彼女の興味はダンスと人類学へ向かう。やがてマヤは巡業中のアメリカ西海岸でチェコからの亡命中の映像作家アレクサンダー・ハミッドと出会い結婚。翌年の1943年、マヤが26歳の時に二人の共同で映画史上に残る『午後の網目』を制作する。この作品は1947年のカンヌ映画祭で実験部門のグランプリを獲得し、マヤの評価を決定的なものとする。数本の映画作品を制作後、マヤはハイチへヴードゥー教の研究に旅立ち、成果を一冊の本「聖なる騎士たち」にまとめている。マヤは44歳に脳溢血で死亡するまで6本の映画作品と1冊の著作を残し、現在にいたるまであらゆるアーティストに影響を与えている。
午後の網目 Meshes of the Afternoon
1943年/14分/共同監督:アレクサンダー・ハミッド/音楽:テイジ・イトー/出演:マヤ・デレン、アレクサンダー・ハミッド
道に落ちている花一輪。少女の影がそれを拾い、やがて少女は玄関の扉を鍵で開けて家に入る。部屋のなかにはパン切りナイフや受話器の外れた電話。少女は階段を上る。風にたなびくカーテンと空転するレコード。少女は椅子に座り、瞳を閉じる。その傍らに同じ少女が立ち、窓の外を眺める。夢のような景色…… デレンは夢を媒介にしながら、内面の探求に向かうが、同時に映画そのもの構造をも探求した傑作。
陸地にて At Land
1944年/15分/サイレント/出演:マヤ・デレン、ジョン・ケージ
海岸に打ち寄せられ横たわるデレンの身体。流木の間を這い上がってゆくと、そこには正装をした紳士淑女たちがチェスに興じている。官能的、触覚的作品。
カメラのための振付けの研究 A Study in Choreography for Camera
1945年/4分/サイレント/出演:タリー・ビーティ
ダンサーが森、アパート、美術館の中と、様々な空間の中を踊る。緻密に計算れたカメラの動き、ダンサーとカメラのコラボレーションとしての映画。
変形された時間での儀礼 Ritual in Transfigured Time
1946年/15分/サイレント/出演:アナイス・ニン、マヤ・デレン
アパートの部屋を行き来する女。部屋にあらわれる別の女。日常的な所作とダンサーの動きによる儀式。カメラによって創造される儀式的空間と時間。
暴力についての瞑想 Meditation on Violence
1948年/12分/音楽:中国の笛とハイチの太鼓
室内の白い壁の前で踊る上半身裸の中国武術の演者。野外で衣装を着け、剣を持って踊る。そして再び室内へ。陰と陽の構成が重視されている。
夜の深み The Very Eye of Night
1952~59年/15分/音楽:テイジ・イトー
星空に男女のダンサーの群舞がネガで重ねられる。ダンスする男女の白い影が夜空に銀河のごとく浮かびながら戯れる。
● 魔女のゆりかご Witch's Cradle 1943年/16ミリ/13分 出演:マルセル・デュシャン
● メドゥーサ:YMHAワークショップ Medusa: YMHA workshop 1949年/16ミリ/10分
● ハイチについてのドキュメンタリー Haitian film footage 1947-51年/16ミリ/約15,000フィート
● 聖なる騎士たち:ハイチの生きた神々 The Divine Horsemen: The Living Gods of Haiti 1947-51年/16ミリ/54分/1977年にヴィデオリリース
● 夢遊病者のための合唱団、トロント映画協会のワークショップ Ensemble for Somnambulists: Toronto Film Society workshop 1951年/16ミリ/20分
● 俳句映画プロジェクト、ウッドストック・ワークショップ Haiku film project 1959-60年/16ミリ/約58分