Q :山岳地での撮影のエピソードがあれば教えて下さい。
A :ロケ地はハノイから車で2日のところで、私たちが滞在していたホテルからも車で片道3時間かかります。しかも映画の中でご覧いただいたような細い山道を通っていくのです。市場は1週間に1回しか開かれないので、約80人の撮影隊の食料を確保するのだけでも大変でした。撮影を担当したオーストラリア出身のコーデリア・ベレスフォードが、初めてベトナムに来て食べ物が合わなかったり、虫に刺されて救急車で運ばれたスタッフがいたり、険しい山道なので機材もあまり持っていかれなかったり、苦労はたくさんありました。監督であり、私の夫でもあるゴー・クアン・ハーイはいろんな人に「こんな大変なところで映画を撮るなんて」と言われていましたが、この土地の風景の美しさと人々の暮らしぶりの素晴らしさを世界中の人に伝えるためには努力を惜しみませんでした。
Q :映画の中では、パオの父親の最初の妻は跡取りとなる子供を産むことができず、別の女性が家にやってくるわけですが、このような家族制度の因習について、またその中での女性の立場についてはどう思われますか?
A :もちろん現代では根強く残っているわけではないとしても、家の流れを守らなくてはいけないという慣習は続いていると思います。今回撮影を行った土地には、現在でも一人の男性に何人かの奥さんがいて、一軒の家にみんなで住んでいるというケースもありました。印象的だったのは、そういう場合でも女性たちが嫉妬をしたり、家族の中でいがみ合ったりしないことです。妻たちが協力しあって家の仕事やお金を稼ぐ仕事をし、男性はお酒を飲んでいるような家もあります。それでも女性たちは抑圧されているとか、嫌がっている様子は見せず、その生活を楽しもうとしているようでした。むしろ彼女たちは、どんな状況でも仕事をしながら歌をうたったり、まるで人生には難しいことなんて何もない、と言っているみたいでした。それが彼らの風俗なんです。
Q :映画の中で印象的なシーンに、母キアが別の男性といるところをパオが目撃してしまう、 という箇所がありましたが、これはどういうシチュエーションなのでしょうか?
A :この地域で1年に1回開かれる「3月27日市場」(映画の中では「春祭」とされている)で、それは、昔は愛し合っていたけれど結ばれなかった男女が、再会して近況を報告し合うお祭りです。自分の育ての母親が昔の恋人に会っているのを見つけたパオはショックを受けますが、目撃したパオが少女である、というのは大事なポイントです。もし、パオの父親とか、他の大人が見てしまったとしてもそこまでショックは受けないと思います。パオが思いがけなく、父親以外の男性といる母を見かけた、ということが重要なのです。