イントロダクション
トボけたトーンのナレーションが代名詞、ゆるゆるキャラの栗原みえによるユニークでユーモラスなタイ滞在プライベート・ドキュメンタリーが、観た人の心を掴んで離さない。
『雲とか虫とかテツジョウモウ』はイメージフォーラム・フェスティバル2014でアレクセイ・ゲルマンの『神々のたそがれ』と並んで反響を巻き起こし、『スローモーション、ストップモーション』はイメージフォーラム・フェスティバル2018「東アジア・エクスペリメンタル・コンペティション」で大賞&三会場観客賞の四冠を達成、圧倒的な評価と共感を得た。
日記映画の父ジョナス・メカスは、所謂アンダーグラウンド・シネマの定義について、こう言っている。
「アンダーグラウンド・シネマ? そんなものはない。あるのは新しい映画だけだ。そこには新しい人間のように決定的なものは何もない」
現在の日本における日記映画の第一人者と言える栗原みえの作品は、映像そのものがまるで新しい友だちのように立ち現れる。胸にのこる温かな感情は類型的な言葉では捉えられない。
観客は、映画と睦まじさで結ばれるという稀有な瞬間を体験するのだ。
フジフイルム「シングル8」の現像サービス終了に伴って作られた『雲とか虫とかテツジョウモウ』は、それまで8ミリだけで映画を作ってきたゆえに、8ミリでしか映画を作れない作者の、最後の作品のはずだった。それほど栗原みえのオリジナリティは8ミリと不可分だったが、4年を経て傑作『スローモーション、ストップモーション』が完成、初めてのデジタル作品となった本作もまた、この作者にしかできない映画となった。
今回の2作品上映は、8ミリからデジタルへの、かつてなく鮮やかなランディングを検証する試みでもある。
Aプログラム 『雲とか虫とかテツジョウモウ』
栗原みえ/8ミリ/68分/2014
出演:ピードゥアン一家、ビーと仲間たち、チェンマイの人たち、ガンランパの子供たち、トゥンスリヤムの人たち、たこ焼き屋のおばちゃん、他
イメージフォーラム・フェスティバル2014「ジャパン・トゥモロウ」優秀賞受賞
オリジナル8ミリフィルム上映
三軒茶屋中央劇場のメガネのおじさん、私はもう大丈夫です。新しい場所は見つかりました。それから、なんのとりえもない私に8ミリカメラというイカすおもちゃをくれた映画の神様、もしいるんなら今までありがとう。(栗原みえ)
review チェンマイ ゆるゆる ちびまる子(小原篤のアニマゲ丼)
Bプログラム 『スローモーション、ストップモーション<』
栗原みえ/デジタル/153分/2018
出演:アンの一家、ピードゥアン一家、チェンマイの友人たち、ピンちゃん、ミャンマーで出会った人たち、ラオスのガキんちょ共、他
イメージフォーラム・フェスティバル2018「東アジア・エクスペリメンタル・コンペティション」大賞&観客賞受賞
ハッピーでピースな時間たちをスロー再生したり一時停止したり。(栗原みえ)
栗原みえ KURIHARA Mie
1971年生まれ。短大卒業後、録音スタジオの映写技師を1年勤めたのを機に映画を仕事にしないことを決意。その後イメージフォーラム付属映像研究所第17期入所。これまでに8ミリフィルムによる作品を9作品発表し、初めてのデジタル映像作品が『スローモーション、ストップモーション』。