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2004/12/12,12/19
純粋に澄み切っているっていうこと 鈴木志郎康
2004年現在の時点で、わたしが一番面白いと思い、気に入っている映像作品は玉野真一の作品だ。身体を張っている、身体で勝負している、体当たりで 身体にものを言わせている、ということ以上に、玉野真一の作品の中の青空は澄んでいる。言葉で汚れていない。その青空は未開の空だ。玉野真一は、東京とか川崎とかで撮影しているのに、空が澄んでいるのはどういうわけか。彼が見ている空は別の空だ。何も着てない裸の空だ。玉野真一は、そこに絵文字を書くように映像を作っていると考える。つまり、彼の映画は、彼の原人が作っていると言ってしまえる。洞窟画を描いた原人が見たに違いない澄んだ空が玉野真一作品の空だ。これは偶然ではない。言葉で汚れた薄汚い映像を破り捨てたいという衝動の結果だ。
都市が設えた階段から地面に身をもって転げ落ちる。撃たれるとか殴られるとかではなく、自分自ら転げ落ちる。カメラを持って転げ落ちる。視界は回転し、別の空間が開く。安全を無視する。舗装された道路を転がって行く。目眩の中で女の子のパンツを追って転げる。真剣そのもの。痛いに違いないが、悲鳴を揚げない。ここに、金目当てに汚れた言葉を拒否する身体がある。言葉を着てない身体だ。飾らない裸の心だ。言葉で言い寄ろうとなどせずに、女の子の拍手に応えて、自分も拍手で応じる。まるでアフリカ人かインデアンの儀式のようだ。人は何故拍手するのか。言葉以上の言葉で応援する、気持ちを伝える、空気の振動を起こして、振動の波に気持ちを乗せて伝える。墓石に向かって拍手する。そんなことを考えた奴がいるだろうか。拍手の波動は生きているものに撥ね返ってくる。生きてるってことを直に感じたい。金メダルなんて糞食らえ、紙幣なんて糞食らえ、紙幣と同じ比喩に染まった言葉なんか糞食らえ、っていうことですね。
公園の噴水の湧き立ての水を走って汲んで来て、脚をバタつかせる玉野真一にぶっかける女の子、彼女の姿が忘れられない。温まった溜まり水でなくて、湧き立ての冷たい奴ですよ。心を働かせているってわけです。小さい映画だけど堅くて澄んでいるのが、玉野真一の映画だ。

作品コメント
よっちゃんロシア・残りもの●町中の階段を、坂道を、ただただ転げ続けた先には、一人の女が立っていた。対峙する男と女。緊迫する空気。睨み合う二人が取った行動とは?(「よっちゃんロシア」)
じりじりした日差しが照りつける真夏の墓地。ある墓石の前で男がエールを送る。「いけいけアキヤマ〜」と、めまいがするほど叫び続ける。(「残りもの」)
ある種の衝動が肉体も精神も超えてしまって、全てが無意味になり、そこに得体の知れない力が生まれた。ここから始まったんだなあ。<PFFアワード2002審査員特別賞>
こうそく坊主●縄跳びをする毛皮を着た坊主とゴムチューブを指に掛けて投球練習をするユニフォーム姿の男。チューブを支える女が手を放すと、男と坊主はミニマルな反復運動を始める。激しい肉体運動と恍惚とした表情が相まって、エスカレートする音とリズム。だが、二人の男の首にチューブが捲かれ、たちまち躍動は女に「拘束」された。意志のいびつな子供のような、そんなパワーをおもいっきり投げつけてみた。ストライク?ボール? <イメージフォーラムフェスティバル2003奨励賞 第24回神奈川映像コンクール優秀賞 03バンクーバー国際映画祭招待 04ロッテルダム国際映画祭招待>
純情スケコマShe●部屋で扇風機の修理をする坊主頭の男と、強い日差しの下、ベッドの上で膝の裏を「プップップップー」と、狂ったように鳴らす男。そして、その男に水を浴びせる女。純情な出会いを果たした三人はスケコマシーな風に身をまかす。と、ストーリーみたいなものを書いてはみたが、この作品に存在するのは直感のみなのだ。いいよいいよ、いい感じ。<第25回神奈川映像コンクール入選>
Nov.16●撮影はたしか・・・ 11月16日(しらじらしい)。映像日記的なことをやっていこうと始めた作品。が、結局続かず。そういえば日記も続かなかったことを思い出しました。人ってかわらないね。
チューしてっちゅ●『こうそく坊主』から出演してくれてる坊主頭のO型♂。彼のあだ名は「てっち」。そう、タイトルにもなってるYO!てっちはチューをしたことがないんだってYO!だったらすればいいじゃんYO!て、そんなノリだけでやってしまうほどファーストキスは軽くなく、慣れ親しんだ土地で夢を見るにはあまりにもバカバカしいYO!

玉野真一●1975年生まれ 双子座 A型
イメージフォーラム付属映像研究所24期卒。20歳の頃、椎間板ヘルニアになりお医者さまに「生まれつきこうなる運命だった」と言われる。そして、「重い物を持ったり危険なことはしないように」と注意をうける。その後5年間レンタルビデオ屋のバイトをおとなしく続ける。
そして今・・・ 「頭でいろいろと考えるのって面倒くさいなあ」と、身体を踊らせ続け早4年。
先生、この頃また疼きます・・・。
よっちゃんロシア・残りもの
こうそく坊主
チューしてっちゅ
受付
一般900円/会員600円

■上映作品
よっちゃんロシア・残りもの 8ミリ/18分/2001
こうそく坊主 8ミリ/11分/2002
純情スケコマShe 8ミリ/15分/2002
Nov.16 ビデオ/2分/2003
チューしてっちゅ 16ミリ/15分/2004
※すべて玉野真一作品