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楽器としての映画
2009/10/10, 11

「映画を見る」という体験は、本来、記録された映像と音とのつながりを何の疑いもなく受け入れる事である。が、その連続性や構造に疑問をもち、手を加え、映画に自明の約束事に風穴をあける作品がある。そして、それらの作品は感覚的、生理的な刺激に満ちているためかしばしばユーモラスな表情をみせる。
音と映像が完全に一致して、なんともいえない快楽を与えてくれるアクティヴな抽象表現、ビジュアル・ミュージックともよばれる一連の試みがある。抽象アニメーションの始祖、レン・ライの晩年の作品「空間の粒子」「フリー・ラディカルス」では、単純なフィルム傷と民族音楽のみの要素で全く新しい空間体験を提示してみせた。奥山順市は映画のサウンドトラックを楽器化し、ひらたたかひろや中島雄介等、若手作家はノンリニア編集による緻密なコントロールで現実のアクションをメロディーに変えていく。
映画に写っている音源や演奏行為、さらにはその音を聴いている人物をも包み込んでいる場所や空間それ自体を「楽器」と見なす帯谷有理の「ミスティック・チューブ」シリーズも興味深い。ホーミー歌手の移動と共に、トンネルという管楽器の中で変化する残響音が 体験できる。
音に意識的で、音から発想する8つの作品世界。(澤隆志)

  • 我が映画旋律

    我が映画旋律
  • The Trains

    The Trains
  • unconscious

    unconscious
  • Mystic Tube#1 揺れている、逃げている

    Mystic Tube#1 揺れている、逃げている
  • He may solve the problem by using his logic.

    He may solve the problem by using his logic.
  • フリー・ラディカルス

    フリー・ラディカルス
  • 空間の粒子

    空間の粒子
  • エマルジョン・ペインター

    エマルジョン・ペインター
日付 3:00 5:00
10/10 -
10/11
受付 当日700円 会員500円

    我が映画旋律


    << 画=音 >>をテーマにして制作。サウンドトラックにはみだした映像がそのまま音となる。<画は音>であり、<音は画>である。機織りの筬が、お寺の塀が、金網のほつれが、ホテイアオイが、星の砂が、メロディーを奏でる。初めて耳にする映像そのものの音。古典的な映画のメカニズムから生み出した、究極の映像表現。それが<映画旋律>である。
    映画の映されない部分をあぶりだす為に、X線で撮影したオリジナルな映像に加え、サイレントフレームの35ミリ・ムービーカメラを有効に利用。映画の構造をダイレクトにヴィジュアル化した。
    (奥山順市)


    The Trains


    映像で音楽を奏でる試み。通り過ぎる山手線。これが基本のワンショット。通過するごとにその車両は短くなり。ついには輪切り状になった車両がビュンビュンと走る。走行音は拍子を刻み、音階を奏で、複雑化して合唱を始める!


    unconscious


    雨の日の散歩は面白い。古くなった壁、電信柱、錆びついたマンホール。それらの汚れは降る雨によって洗い流され、一方で加速し、更に深みを増していく。この作品は、日常生活において意識しない部分を抽出し、その中にあるうつくしさを探っている。
    (中島雄介)


    Mystic Tube#1 揺れている、逃げている


    「ある巡礼者が音楽を奏でながら巡礼地へと赴く途中にあるトンネルを通過する。」という単純な共通プロットを連作してゆく「Mystic Tube」シリーズ第1作目。テーマは「音源の移動とそれに伴う残響の変化」だけに限定されている。ここでは、私自らが演ずる巡礼者による無伴奏喉歌のドローンと自然倍音のハーモニーが、長さ650m、残響10秒を超える直線トンネル内で次第に変容しながら、音楽の抽象性と映画のプレゼンスとが、暗闇の中で交差する。
    (帯谷有理)


    He may solve the problem by using his logic.


    パソコンの英会話練習ソフトのネイティブ・スピーキングに必死に追随する作者の声。もはや文章の意味や活用、コミュニケーションは吹き飛んで、呪文の様に同じ文章を繰り返す。
    流暢な英会話への盲目的決意、反復、いつしか訪れるグルーブ。


    フリー・ラディカルス


    題名は現代物理学でエネルギー分子を指すが、視覚的には未開社会の芸術を思わせる。黒味フィルムへのスクラッチ。


    空間の粒子


    黒味フィルムのスクラッチとアフリカン・ドラムを組み合せたレン・ライ最後の作品。


    エマルジョン・ペインター


    スクリーンに投影されたフィルムを観る時、感光乳剤であるエマルジョンそのものを意識する事はない。僕は、エマルジョンそのものをイメージとして捉え、物体としてのフィルムを強調する為、フィルムに直接ブラシでエマルジョンを塗りつけ、厚みの変化やムラ、点と線、アワなどを出現させた。
    (奥山順市)


    上映作品


    我が映画旋律 奥山順市/16ミリ/6分/1980
    The Trains ひらたたかひろ/ビデオ/8分/2004
    unconscious 中島雄介/ビデオ/5分/2007
    Mystic Tube#1 揺れている、逃げている
      帯谷有理/ビデオ/15分/2008
    He may solve the problem by using his logic. 能瀬大助/ビデオ/12分/2006
    フリー・ラディカルス レン・ライ/16ミリ/5分/1958
    空間の粒子 レン・ライ/16ミリ/4分/1979
    エマルジョン・ペインター 奥山順市/16ミリ/6分/2009