国内外の映像アート作品の上映、レクチャーを定期開催。古典的名作 から、最新の実験映画まで

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波うつ扉 萩原朔美、狩野志歩作品集
 狩野が実験映画に興味を持ったきっかけは、1992年に横浜美術館で開催された「動く絵」展で萩原のワンショット映画『TIME』を見たことだという。30年の時を経た2人の作家によるワンショット映画を凝視してみよう。

『KIRI』では、風景はしだいに霧のためにくもってくる。フィルムは白黒であるが、フィルムの調子を象徴する灰色の濃淡の変化が空間的印象を統一している。風景の中のオブジェは、木の枝や幹だということはわかるが、それは浸透するとばりのなかにひろがる、透かしのトレーサリー模様になっている。『ザ・ドリーム・ネック・ギロチンド』では、太陽光線が窓から入ってきて、壁へ影を投げかける。この壁は曲がった影とともに撮影されるが、影の角度が深さを示唆することはない。映像に対する壁の関係は平板である。光の移り変わりは、影のパターンを変化させ、主要な中心になっている。ワンショット・フィルムの他の例と同じように、この2つの作品はもちろん時間的持続の凝視を問題にしている。すなはち、展開は微妙なものでなければならない。このように一点に集中し、他を排することによって、『KIRI』『ザ・ドリーム・ネック・ギロチンド』のようなフィルムは映画的意識という点からみて、洗練されている。これらの作品の問いは、徐々にクライマックスにもりあげていく展開の図式にあるのではなく、むしろ瞬間瞬間の進展に関わっている。言い換えれば、問いは、「次に何が起きるか?」ではなくて、むしろ「各瞬間に何が起こっているか?」ということなのだ。おそらく、毎秒毎秒、一コマ一コマにおいてさえ、問いが発せられているのである。
(ダリル・チン「幻想(主義)の未来」亘朋志訳 ミレニアム・フィルム・ジャーナル1978年より)

私はまた萩原朔美という若い日本の映像作家のフィルムを3本(『バタフライ』『KIRI』『ザ・ドリーム・ネック・ギロチンド』)見ました。一般的にいって日本の前衛映画は、ストイックなものでも、写実的要素の強いものでもミニマルなものが多く、そしてそのどちらでもないとすれば、こんどは性的に非常に粗雑で露骨なものが多い。しかし萩原の作品は叙情的で、気負いのない、私的なものなのである。『KIRI』はラリー・ゴッタイムの『フォグ・ライン』によく似たストラクチュアルな作品ーーそれは遥かかなたの山々を背景にして、目の前に広がる草木の上に静かに霧がかかり、再び静かに消えていくというものーーで、実に美しく、みるひとの心にすがすがしい安らぎを感じさせるフィルムであった。
(ジョナス・メカス、道下匡子訳 ビレッジ・ボイス誌1975年8月2日号)

<薄目をあけると像が染みる>
狩野の作品はほとんどが室内で撮影され、被写体も限定されている。わずかに開いた窓、一輪の花、揺れる椅子、染み、煙・・・ そしてなにより、微妙なカメラコントロールで演出された光そのものが主人公である。暗闇から眼が眩む(くら・む、と読ませるのは意味深)ほどの開放露出までのなだらかな光のスロープ。フォーカスアウトして次第に溶けてゆく輪郭と色彩。これらは凝視し続ける事によってみえる画像は千差万別である。なぜなら、鑑賞者の眼は光に反応して像と残像を知らずに重ね合わせていくからである。「眼が色を染める」(向井周太郎)わけである。
もう一つの特徴は、シンプルだが実に効果的な編集行為により、異なる時間の画像がかさなって空間化されている点である。時間経過と奥行きの関係は実験映画で繰り返し探求されるテーマであり、アーニー・ゲール『穏やかな速度』ビル・ヴィオラ『歯と歯の間に』などのエレガントな先例もあるが、これらの作品は風景のパースもはっきりし、コマ間もソリッドで差異がはっきりわかったうえでのイリュージョンを見せているのに対し、狩野のフィルムはディゾルブにより2点の時間を溶け合わせ、あたかも下のレイヤーに隠れていた時間が染み出してきたような印象を与える。被写体が不定形なものの場合、時間を空間化する効果は絶大だ。なぜなら2秒前の煙と2年前の煙を区別するものなどなにもないから。
経過する時間と、重ね合わせた時間が巧妙にブレンドされて、暗闇の中の鑑賞者は自ら凝視した眼のリアクションを通じ、いつのまにか穏やかな眩暈を起すことだろう。(澤隆志)

●萩原朔美
1946年東京に生まれる。67年から70年まで寺山修司主宰の演劇実験室「天井桟敷」に在籍。70年代に入って本格的に映像作品の制作に取り組み、時間や記憶をテーマにした作品を多く制作している。79年には第11回東京版画ビエンナーレにおいて長岡現代美術館賞を受賞。多摩美術大学教授。主な映像作品に『TIME』(71)『KIRI』(72)『2月20日』(88)『クローズド・グラス』(91)『映像書簡1〜9』(かわなかのぶひろと共作・79〜03)
著書「定点観測」(パルコ出版、87)「思い出の中の寺山修司」(筑摩書房、92)「砂場の街のガリバー」(フレーベル館、95)「小綬鶏の家」(萩原葉子&萩原朔美 集英社、01)

●狩野志歩
1974年生まれ。武蔵野美術大学映像学科卒業('97)。イメージフォーラム付属映像研究所第21期('98)、22期('99)修了。1990年頃より写真制作を始め、1996年頃よりアニメーション作品を制作。以後、8ミリ、16ミリ、ビデオによる映像作品、インスタレーション作品を発表。
第5回アート公募奨励賞('00)、イメージズ・フェスティバル・ベストインターナショナルフィルムアワード(カナダ・'01)受賞。その他、オーバーハウゼン国際短編映画祭(ドイツ・'01)、ロッテルダム国際映画祭(オランダ・'02)など国内外で上映・受賞多数。
揺れる椅子
※作家による対談あり。チケットの半券で参加できます。

受付(各回入替制)
当日900円/会員600円

赤い花 狩野志歩/ビデオ/12分/2002
ザ・ドリーム・ネック・ギロチンド
萩原朔美/16ミリ/4分/1972
揺れる椅子 狩野志歩/16ミリ/13分/2000
白いテーブルクロス 狩野志歩/ビデオ/7.5分/2000
お香 狩野志歩/ビデオ/6分/2002
KIRI 萩原朔美/16ミリ/8分/1972
ヴォイド 狩野志歩/16ミリ/10分/2003
TIME 萩原朔美/16ミリ/13分/1971

 

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