イントロダクション
個人映画作家にとって家族というのは最も身近な撮影対象だろう。特に作者と母親についての関係を描いた作品は、ドキュメンタリー、劇映画、アニメーションとジャンルを問わず、古今数多くの作品が作られてきた。しかし、必ずしも母親が子供の作品制作に好意的とは限らない。「映画とかなんとか言って、いつまで遊んでるの!」とまったく理解がない場合も多く、それを乗り越えて母親とのスリリングな関係をカメラに収めた作品もある。とはいえ、母の日にそんな緊張感あふれる作品を上映するのも気まずいので、今回のプログラムは緊張感とは無縁の、幸運にもお母さんが言われるがまま協力し、登場してしまった作品をセレクト。描かれるテーマやスタイルはそれぞれ異なるが、「お母さんありがとう!」と明るい気持ちになる実験映画たち!
上映作品
母よ、アニメを見よう 阿部舜/デジタル/11分/2016
赤い玉がない! 山口健太/デジタル/19分/2020
三木はるかるた2017 三木はるか/デジタル/29分/2018
みずうみは人を呑み込む 宮川真一/デジタル/44分/2013
※芹沢洋一郎さんによる特別オープニング映像あり
※上映後に来場作家によるトークあり
作品紹介
母よ、アニメを見よう
アニメはどこへ行ってしまったのだろうか。時間や場所の制約なしにアニメを見ることができる今、私が感じるこの寂しさはなんなのだろうか。
そんなことを考えていると、私の前にその謎の生命体は現れた。その様子は、母の持つビデオカメラに記録されていた。(阿部舜)
ラフな手描きアニメで描かれた不定形な生き物が、日常の中に投影される。作者と母のとぼけた掛け合いで醸し出される不思議なリアリティ。プロジェクションマッピングをはじめとするハイテク映像を嘲笑うかの如きアナログ手法が、我々の周りのメディア機器から生成されているものが何なのか、鋭く問いかける。(イメージフォーラム・フェスティバル2016カタログより)
赤い玉がない!
「俺」が夜遅く帰宅しシャワーして全裸で出てきても、悪友「松田」の冷静さにムカついて朝から八つ当たりしても「ママ」は全然平気だ。大イビキをかいて爆睡するわ、仏間で上機嫌でダンスするわ。比べて「俺」は何にイラついてる?!映画男子の妄想はそんな愛すべき母と腐れ縁のシネ友とを巻き込んで「赤い玉」と化し脳内でバクハツする。(イメージフォーラム・フェスティバル2020カタログより)
三木はるかるた2017-
31歳。作家として芽が出ず、不安定な収入、恋人にも距離を置かれ、心はマイナス方向に傾きます。せめてこの気持ちをかたちにしたいと自虐短歌を100首作りました。プライベートな悩みやけったいな恋愛観が詰まった歌たち。かるたにしてみんなで遊んでみましょう。(三木はるか)
みずうみは人を呑み込む
個人の映像制作を取り巻く状況は、8ミリフィルムからデジタルへとすっかり変わっていた。
そんな中、8ミリラブな私の映画は世の中に通用するのだろうか?という不安を掻き消すように、遮二無二カメラを回した。
'湖面から8ミリカメラを持った腕が出てくる' というシーンを撮らなくてはいけないという思いに取り憑かれ撮影を始めたものの、失敗の連続で、そのシーンだけで30本ものフィルムを費やしてしまった事が思い出深い。(宮川真一)