見るということ ビデオ/95分/2009
1960年代からネオ、ドキュメンタリズムを提唱し,日本における実験映画の先駆者とも言える映像作家、松本俊夫が企画、構成した6人の実験映画作家によるオムニバス作品。松本が提示した「見るということ」というテーマに基づき,6人が各自各様のアプローチでテーマをとらえ,独自の映像を展開する。我々が”物”を「見るということ」そして「映画を作るということ」とはいったい何なのか? という根源的な問いに向かっている。
企画・構成 松本俊夫 MATSUMOTO Toshio
プロデューサー 佐野真澄 SANO Masumi
冬の遮眼子 Blinder in Winter
作=加藤 到 by KATO Itaru
「見るということ」を顕在化させるためには、”見えないということ”に自覚的でなければならない。視力検査の時に”遮眼子”という道具と出会い、”眼”を”遮る”ことが,見るという行為を浮き彫りにしてくれることに気づいた。
ダリア Dahlia
作=狩野志歩 by KANO Shiho
夜明け前から日暮れまでの、光がもたらされ視覚が成立する時間を インターバル撮影した。毎秒1フレームという時間の集積により定点観測的にとらえられた光の変遷と、1フレームの中に押し込められた空間が錯綜する。
星座 Constellation
作=前田真ニ郎 by MAEDA Shinjiro
「撮影して、その映像を見る」この単純な行為を続けながら映画を形づくっていった。「風景へのまなざし」「夢を見ること」「描くこと」という3つの主題をみつけ、多様な「見るということ」を交錯させている。
神無月 October
作=稲垣佳奈子 by INAGAKI Kanako
ただ淡々と目の前のものを受けとる作業-「見る」は、言葉や思考とは交わらない。「見る」が独立したとき、生死の最中でさえ、美しさと醜さを同等に受け入れさせる。そのまなざしを映像化したい。
虚空の鏡 mirror of air
作=奥野邦利 by OKUNO Kunitoshi
作品「虚空の鏡」は、映像を見ることについて思考を巡らせながら、みなさんの記憶に働きかけ、みなさんの記憶を映す、そのような装置を作りたいと願い制作した。作中の音楽は上野耕路氏によるオリジナル。
死角 dead-seeing VISION/CONTROL
作=大木裕之 by OKI Hiroyuki
「見るということ」というテーマと、オムニバス作品であることから、「死角ーVISION/CONTROL」というイメージが生まれ、シンプルなコンセプトで形にした。「死角」を日常のプラスに問い転ずるために。
チベット・ネパール・インド・上海 ビデオ/98分/2010
2001年よりネパールを拠点に、アートを中心に活動するNGO組織「パヘンロ」は、人を育てることに主眼を置き、いくつかのプロジェクトを推進している。 本作品は、「パヘンロ」設立者の佐野画廊・佐野眞澄が関わる美術家や、新進気鋭の作家にオファーし、映像作家のみならず、平面作家や写真家を監督に起用した。ネパールを中心に、インド、チベット、上海を撮影地とし、「映像により語るアジア」を表現する。プロデューサー 佐野真澄 SANO Masumi
構成・編集 奥野邦利 OKUNO Kunitoshi
包含の道 The Road to Comprehension
作=世良京子 by SERA Kyoko
カトマンズからアッという間についたインド・ヴァラナシ。悲惨なものと素晴らしいものが混合したエーテルの中の世界は、私の心には到底簡単には入りきらない。「時間」というツールー絵画の重要なテーマでもあるーを直接的に取り扱っている事を、少し奇妙な感じで捉えている。
〇四二三-因果 0423-KARMA
作=大木裕之 by OKI Hiroyuki
2001年5月から2002年4月までの1年間に計4回、ネパールを中心にインド、中国、チベットを旅し、撮影した。僕にとって初めての「アジア」とのかかわりを、因果と捉えアクションしてゆきたいとの意をこめタイトルとした。
縷縷 Flow
作=稲垣佳奈子 by INAGAKI Kanako
ネパールでのわずか数日の滞在が、過去の蓄積をとかし、自己への嫌悪感をむき出しにした。自然、日々、人の目、営みーすべてがシンプルで、あまりに美しかったからだろうか。広島に帰ると、低温で淡淡とした、生活。つつと落ちるひとすじの涙。そこにも真空の呼吸があった。
ボダナート /上海 Bouddhanath/Shanghai
作=中ザワヒデキ by NAKAZAWA Hideki
『ボダナート』は、初めてカメラを画材として持たされたその日に撮影した素材を用いた、私の撮影映像第一作である。画面分割のアイディアは、撮影開始当日の朝、思いついた。『上海』は、『ボダナート』制作中に意識することとなった、「画材としてのカメラ」それ自体を主題とした撮影映像第二作である。
天空からの絨毯プロジェクト The Carpet from the Sky
作=小沢剛 by OZAWA Tsuyoshi
私たちの暮らす地球は、あまりにも多種多様な人間たちが暮らしている。人は、身近な問題までしか目が届かず、複雑に絡まり合う世界に直面すると思考停止状態になりがちである。そんな時、ずっと引いてそれを見てみよう。あなたの瞳には、絨毯のような単純な形が映るかもしれない。あなたの問題とは、織りなされた絨毯の1本の繊維かもしれないのだ。
光景 Spectacles
作=西村知巳 by NISHIMURA Tomomi
なんでもない風景が、特別な光景となって胸の中で輝くのは、僕の心の流れが遠く旅をした挙句、ある特別な地点に辿り着いたからだ。目の前を流れてゆく見知らぬ光景に、瞬きごとに生まれ変わるような気持ちで、目を見はった時、ようやく僕はアジアを歩き始めることが出来たのだった。
Wedding 結縁
作=前田真二郎 by MAEDA Shinjiro
2週間のチベットの旅は、正に「結縁=仏道に入る縁を結ぶ事」であった。ウエディング、仏教との出会い、私にとっての仏教入門に違いなかった。チベット文化は恐ろしく未来的で、何か新しいビジョンを受け取ったように感じたのだが、それについて今後も考え続けていきたい。
作家略歴
●加藤 到 (KATO Itaru)
1958年山形県鶴岡市生まれ、東京都立駒場高校時代から8ミリ映画の制作を始め、和光大学、イメージフォーラム付属映像研究所にて芸術学と映像を学ぶ。その後、フリーランスライター、映像作家として、原稿執筆や映像制作に携わり、実験映画、ビデオアート、インスタレーション、パフォーマンス等、メディアアートを幅広く手がける。ハンガリーの実験映画祭「レティナ‘91」では「SPARKLING」(16ミリ、10分)が、シゲトヴァール市長賞を受賞している。 NPO法人山形国際ドキュメンタリー映画祭理事。東北芸術工科大学 デザイン工学部 映像学科 教授
●狩野 志歩 (KANO Shiho )
武蔵野美術大学映像学科卒業。 '96よりフィルム及びビデオによる映像作品、ビデオインスタレー ションを制作発表する。'00メディアシティフェスティバル(カナダ)グランプリ、第5回アート公募(東京)奨励 賞、'01イメージズフェスティバル(カナダ)ベストインター ナショナルフィルムアワード受賞のほか、'01オーバーハウゼ ン国際短編映画祭、'01ー03、'05ロッテルダム 国際映画祭などで招待上映多数。'05より文化庁新進芸術家 海外留学制度にて渡仏、パリ国際芸術都市に滞在。現在東京を拠点に活動中。
●前田真二郎( MAEDA Shinjiro )
1969年生まれ.映像作家.京都精華大学大学院美術研究科修了.在学中より映像制作を開始. イメージフォーラム・フェスティバルにて,エクスペリメンタル・イマジネーション賞(1992),ビデオ・オリジナリティ賞(1993)を連続受賞.その後,国内外での映画祭や展覧会などで発表を続けている.代表作に,「オン」(2000/香港国際映画祭),「日々"hibi"13 full moons」(2005/山形国際ドキュメンタリー映画祭)などがある.平面作家・井上信太との「羊飼いプロジェクト」や,作曲家・三輪眞弘によるオペラ「新しい時代」(2000)など,他領域アーティストとのコラボレーションも少なくない. 2005年より, DVDレーベル”SOL CHORD”の監修を務める. 情報科学芸術大学院大学(IAMAS)准教授.
●稲垣佳奈子 (INAGAKI Kanako)
1980年生まれ 岡山県出身。女子美術大学卒業。(株)電通西日本クリエーティブ室を退職後、現在専業主婦となり子育て中。 2004 JEANSFACTRY CONTEMPORARY ART AWARD大賞M賞。毎日広告デザイン賞 奨励賞。2005パヘンロ参加
●奥野邦利 (OKUNO Kunitoshi)
1969年東京生まれ。 日本大学大学院芸術学研究科映像芸術専攻修了。一時期都内の花火打上げ会社に勤務するも、現在は同大学芸術学部映画学科准教授として学生と共に創作・研究を続けている。変容するメディアと物語性の関係を、リアリティの問題として意識しながら、映像作品の制作に取組んでいる。近年は彫刻やライブ演奏、演劇など、他領域の作家とのコラボレーションも意欲的に進めている。日本映像学会理事。越後・妻有トリエンナーレ、Festival Signes de Nuit(フランス パリ)等にてスクリーニング。
●大木裕之(OKI Hiroyuki)
1964年東京生まれ。高知県在住。東京大学工学部建築学科卒業。「松前君シリーズ」「デジシリーズ」など各地で長期にわたる映画制作を続けている。「遊泳禁止」(1989)がイメージフォーラム・フェスティバル1990審査員特別賞。高知県立美術館製作による「HEAVENー6ーBOX」(1995)がベルリン国際映画祭ネットパック賞受賞。近年は2004年「六本木クロッシング」展(森美術館)、2007年「マイクロポップー夏への扉」展(水戸芸術館)など美術館やギャラリーで数多くインスタレーション、パフォーマンスを発表している。2000年よりチーム「M・I」を率いて毎年八月高知のよさこい祭りに参加。
●世良京子 (SERA Kyoko)
1957年福岡生まれ。東京造形大学彫刻科卒業。主な個展に1988佐野画廊、1994ギャラリー山口など、主なグループ展に1994「現代美術の展望 VOCA展'94」上野の森美術館、VOCA賞受賞(東京)1995「視ることのアレゴリー」セゾン美術館(東京)
●中ザワヒデキ(NAKAZAWA Hideki)
美術家。1963年新潟生まれ。千葉大学医学部卒後数年間の眼科医勤務を経て、1990年、イラストレーターとして独立。1997年、美術家に転身し、文字や記号を使う難解で論理的な作風を展開。2000年1月1日、詩人、音楽家と「方法主義宣言」。以降2004年末まで、Eメール機関誌『方法』を主宰した。2000年、佐野画廊。2001年、ギャラリーセラー。同年、病院ギャラリー。2002-03年、文化庁派遣芸術家在外研修員として渡米。2005年、ネパールと上海で滞在制作。著書『西洋画人列伝』他。特許「三次元グラフィックス編集装置」他。
●小沢剛 (OZAWA Tsuyoshi)
1965年東京生まれ。東京藝術大学大学院壁画専攻修了。2002年岡本太郎記念現代芸術大賞準大賞受賞。東京藝術大学在学中から、風景の中に自作の地蔵を建立し、写真に収める<地蔵建立>開始。93年から牛乳箱を用いた超小型移動式ギャラリー<なすび画廊>や<相談芸術>を開始。99年には日本美術史への皮肉とも言える<醤油画資料館>を制作。2001年より女性が野菜で出来た武器を持つポートレート写真のシリーズ<ベジタブル・ウェポン>を制作。2004年には森美術館にて個展「同時に答えろ YesとNo!」を開催。
●西村知巳 (NISHIMURA Tomomi)
1978年 山口県生まれ。東京造形大学美術学科絵画専攻卒業、映画美学校ドキュメンタリー初等科修了。 主な個展に2002年「アプラクサス」東京造形大学node、2005年「心の地図」switchpointなど 主な上映会に2004年「キクプロジェクト」御茶ノ水アテネ・フランセ文化センター、2006年「兄の部屋」沖縄市中の湯、新宿akta、福岡IAF、大阪dista、「キクプロジェクト 光の国家建設」高知市 JEANSFACTORY ART AWARDS 2006など。