イントロダクション
8ミリ映画を作るということは、メインストリームから遠く離れた場所で映画の輪郭を指先でなぞり続ける行為なのではないか?
商品としての価値はほとんど見出されない代わりに、流行として消費されることもない。
そこでは作り手の才能と傷つき方が、あまりにもダイレクトに露出してしまう。
つまるところ8ミリ映画とは、作り手が「これは映画だ」と自ら宣言することでしか成立し得ない、残酷で正直な映画のかたちだ。
今回の上映ではフィルム上映に固執せず、あえてデジタルメディアに憑依させる。
これは8ミリ映画が現代を生き抜く為の手段であると同時に、「屈辱」という名のプレイでもあるのだ。(宮川)
『発熱タンゴ』芹沢洋一郎
今回上映の3人とは何年も前から毎年GWに近郊をドライブしたり、大晦日前後に男4人だけでしんみり忘年会をやっている。
そしたら2年くらい前に宮川氏から「現代における正しい8ミリ映画とは?をテーマにこのメンツで上映会をしたい」と提案があり「今更8ミリをテーマに?」と迷ったものの、このメンツでの上映会の傍観者になりたく無い一心で参加を決意。
現在自分史上最悪の体調だが、沢山の人々の助けを借りて制作を始めた。
今の自分にとって8ミリは何よりもまず「古いもの」である。
今現在撮影しても古さを纏うし、沢山の古い記録や記憶が詰め込まれたまま、今も私の手元に残っているメディアが8ミリフィルムなのだ。
だから今回、とっておきの古い記録を引っ張り出して来て使ってみようと思った。
また、8ミリフィルムといえば(デジタルと違って)光を透過させる物質だが、この特質は50年近く前から、私が感じる8ミリ(16ミリも35ミリも)フィルムのもっとも好きな特徴だったので、これもテーマにした。
今回は機材の都合もあり8ミリを35ミリにブローアップして透過性を追及したが、被写体として反射光ではなく透過光で照らせる特質こそが、フィルム媒体固有の神秘の源になっていると思う。
そしてこれは8ミリテーマとはズレるが、音楽を映画に入れてみたかった。但しロベールブレッソンに従ったやり方で、音源が見え、尚且つ同時録音で鳴ってる状況で。同様のやり方で音楽を入れるのは「いどうだいすき」(1991)の歌う女子高生以来だ。
そんな事を考えながら作品を作り始めたのだが、前述のように最悪の身体状態のせいか、不思議と寝ている時に見る夢にそっくりな感触の映画になってきた。
これは想定外で慌てたが、身体の不自由さも相まって途中から他人の作品の如く無責任に楽しむようになった。
普段の自分だったら「夢を映画に」なんて小っ恥ずかしくてやってられかいっ!となるが、今回はこれもまた巡り合わせと寛容に受け入れた。
この先こんなふうに、ウトウトと眠りに落ちるが如く、ポロポロと自己崩壊して行くのだろうか…。
上映プログラム
■こんなモノども 関浩司 / 30分(予定) / 2026
人と精霊と土地に導かれて作られた映画です。
関浩司 :1982年生まれ。茨城県土浦市出身。現在、東京都在住の会社員。フィルム現像業務に関わる。
■ブリュメール ヴァンサン・ギルベール / 13分40秒 / 2026
1960年6月15日、東京大学の学生で全学連の活動家であった樺 美智子は、国会構内での安保条約反対デモ中に、機動隊と衝突し死亡した。
22歳だった。
ヴァンサン・ギルベール :1976年フランス、サン=ドニ生まれ。1999年にパリの映画学校EICAR卒業。2006年より主に日本で活動。
フィルムまたはデジタルで撮影した作品は、断片的な時間性を持つ長編から、実験的なエッセイやアーティストのポートレートまで幅広く、ドキュメンタリーとフィクションの境界線に位置することもある。
■音叉の発生確率 宮川真一 / 30分(予定) / 2026
シングル8フィルムとスーパー8フィルムの違いは色々あるけど、自分にとって決定的な違いは、手で千切れるか否かという事だ。手で千切ることが出来ないシングル8フィルムは、まるで切れないミサンガのように思える。願いが叶わないと知りながら、それでもフィルムを回し続ける。願いが叶うことを恐れているかのように。
※本作には性的な身体描写が含まれます。ご気分を害される恐れのある方は、本作上映中の退出を推奨いたします。
宮川真一 :高校生時代、プロレスラーを目指すもあっさり挫折する。その頃たまたま観た8ミリ映画に衝撃を受け、「スクリーンでプロレスをする」ことを決意。以後、ダンベルを8ミリカメラに持ち替え現在に至る。近年は「初期衝動の黄泉がえり」をテーマに、フジカシングル8で作品を作り続けている。イメージフォーラム映像研究所第15期、同専科第24期修了。
■発熱タンゴ 芹沢洋一郎 / 時間未定 / 2026
2025年に撮影を終え、2026年に撮影済みの映像と、残された絵コンテや文章などをもとに昼間行雄氏により編集、完成。
「光を透過させる物質」である8ミリフィルムの特質をテーマの1つに据え、「夢の記憶が無い眠りと死は、一体何が違うのか?全く同じじゃないだろうか?」という自身の直感と予感の中で制作された短編。
芹沢洋一郎 :映像作家。1963年生まれ。17歳で初作『まじかよ?』(1980)がPFF81入選。流血映画を連作後、奥山順市とロベール・ブレッソンから「主題と手法の一致」を学び作風を転向。
『間男』(1989)がIFF90、『殺人キャメラ』(1996)がサンフランシスコ国際映画祭で入賞。
その後、沈黙期間を経て、『サヴァイヴァル5+3』(2016)を20年ぶりに発表しIFF17において観客賞を受賞。
IFF17では特集プログラム「芹沢洋一郎作品集」が組まれる。IFF2022では、過去作『合成人間』(1993)が丸ごと取り込まれた作品『合成人間のリハビリ』を発表している。
病と闘いながら8ミリフィルムを使用した作品『発熱タンゴ』を制作の途上、2025年9月20日に永眠。



